日本と海外ではCITY POPの認識にズレがあり、人気曲も違うことはこちらの記事:シティポップ人気ランキング!日本と海外こんなに違う!?でご紹介しました。
今回はさらに掘り下げて、海外のファンが好きなCITY POPの特徴を説明するよ
それはズバリ「悲しくて」「懐かしくて」「エモい」「踊れる曲」‼
海外のファンが好きなシティポップの特徴
YouTube動画やSpotifyが上手く表示されないときは画面の再読み込みをしてね
シティポップ人気ランキング!日本と海外こんなに違う!?の記事で紹介した、海外のファンが好きなCITY POPの特徴をこちらにも記載します。
- ディスコ ・ ファンク ・ ブギー・フュージョン・AOR・ソウル・R&B テイストの踊れる曲
- ループ構造に適したフレーズがある曲
Future Funk系のDJ 、R&B・ヒップホップ系アーティストがサンプリング・リミックスしたくなる曲 - 歌詞は悲しい恋・秘めた恋・失恋を歌うものが多い
- クセがなくて、言葉が聞きとりやすいボーカル
- 疾走感のあるドライブミュージック
- 夏のリゾート地で聴きたい曲
- 勉強中などに作業用BGMとして長時間聴き流すのにぴったりな曲
- 印象的で華やかなコーラス
- 日本の凄腕スタジオミュージシャンが演奏する豪華なサウンド
- シンセサイザーのキラキラした音色
- トランペットやサックス、ホーンセクションのド派手な音
- ベースがブンブン鳴ってるグルーヴ感のある曲
キラキラして豪華だけど、どこか悲しい「踊れる曲」「ノレル曲」だよ
メロウでアーバン、ダンサブルでグルーヴ感のある曲と言いかえることもできます。
海外のファンが好きなCITY POPボーカリストの特徴については、こちらの記事:シティポップ海外ファンは日本語の歌が好き⁉人気曲とボーカルの関係 をお読みください。
シティポップブームは本当? 嘘?
シティポップブームは本当か? 嘘か?
答えは両方正しいです。
「ブーム」というと世界中の誰もが知っているようなイメージがありますが、CITY POPブームはそこまでのムーブメントではありません。
一部のニッチな市場でのブームというのが正確なところだと思います。
しかし、ニッチな市場なほど熱心なファンがいるのもまた事実です。
CITY POPブームの始まりは、こちらの記事:シティポップ・ブーム終了? 海外で新しい展開へ!! をお読みください。
インターネット上の音楽Vaporwave(ヴェイパーウェイヴ)・Future Funk(フューチャーファンク)のリスナーが原曲のCITY POPを聞くようになったと言われています。
特にFuture Funkは、踊らせることを目的に、DJがリミックスやサンプリングした音楽です。
CITY POPを知るきっかけが、Future Funkだった海外のファンが多いため、「CITY POPは踊れる曲」というイメージが定着しています。
クラブカルチャー、DJ文化と結びついているのが海外のCITY POPのイメージです。
Future Funkはエレクトロニックなディスコサウンドに加工されています。
日本と海外では求められる曲が違う
しかし、原曲のCITY POPを聴く海外のファンは、テンポが早いダンスミュージックを求めているわけではありません。
YouTubeやSpotifyで、海外のファンが作るCITY POPのプレイリストを聞くと、多くの曲がゆったりしたグルーヴ感のあるミディアムテンポです。
体を揺らしながら、ゆったりと雰囲気に酔って踊りたくなる曲。
雰囲気に酔うAOR的なサウンド。
メロウでアーバンでグルーヴィー。
今の言葉で言う「エモい曲」です。
バラードはほぼ選曲されていません。
アップテンポを選曲する人もいますが、ミディアムテンポの曲に比べると少なめです。
アップテンポで踊れる曲といっても、今のダンスミュージックに比べたらテンポが遅いのも特徴でしょう。
2022年「マツコの知らない世界」のCITY POP特集に出演した韓国人DJのNight Tempoは「僕はBPM(1分間の拍数)を更に落とす」と言っていたので、海外のファンが求めるのは、かなりゆったりしたテンポのようです。
雰囲気に酔うCITY POP代表格は大貫妙子「4:00A.M.」です。
「4:00A.M.」はTikTokのBGMとして海外でバズり、Spotifyで9,000万回以上再生されています(数字は2024年6月現在)。
まもなく再生数が1億回を達成するでしょう。
杉山清貴&オメガトライブのSpotify人気曲2位がミディアムテンポの「DEAR BREEZE」であることを、杉山清貴は次のように指摘しています。
『DEAR BREEZE』は、85年のアルバム『ANOTHER SUMMER』に収録されていて、解散のラスト・ツアーでしか演奏するチャンスもなかったし、こういうミディアム調の楽曲自体、コンサートでも息抜き的な位置でしたからね。それがサブスクではこんなに人気ということは、当時の日本と、今のシティポップ・ブームでは求められ方が違うんでしょうね」
引用:『「ふたりの夏物語」大ヒット直後に解散… 杉山清貴が語る「オメガトライブ」今も褪せない輝き』 デイリー新潮より
日本と海外のシティポップ人気曲ランキング / 日本のヒット曲は聴かれてない!?
日本のファンにとっての人気曲と、海外のファンにとっての人気曲が全く違う点もCITY POPブームの面白いところでしょう。
海外リスナーの利用が多いSpotifyの再生数ランキングを見てましょう。
こちらの杏里Spotify人気曲トップテンをご覧ください。
トップテンを見て、皆さんが知ってる曲はいくつありましたか?
おそらく「悲しみがとまらない」しか知ってる曲がない、という方が多いのではないでしょうか。
日本ではお馴染みのヒット曲「オリビアを聴きながら」「CAT’S EYE」「SUMMER CANDLES」は、トップテンには入っていません。
トップテンのうちシングルA面は2曲のみ。
シングルB面が1曲、アルバム収録曲が7曲です。
「オリビアを聴きながら」「キャッツアイ」「悲しみがとまらない」収録 ベストアルバム |
日本では長年隠れた名曲として扱われていた曲、もしくはマニアな日本のファンにしか知られていなかった曲が、海外での人気曲上位になる傾向があります。
次に竹内まりやのYouTubeを見てみましょう(数字は2024年6月現在)。
竹内まりや「いのちの歌」の再生数は145万回、そのコメントの9割が日本語で書かれています。
それに対し、海外のCITY POPブームの火付け役になった「プラスティック・ラブ」。
YouTubeコメント11,900件のうち、日本語でのコメントは3割程、7割のコメントは英語 ・ スペイン語 ・ 韓国語・中国語など多国籍の言語で埋め尽くされています。
これは他のCITY POPの人気アーティストでも同じ傾向です。
大橋純子の日本でのヒット曲「シルエット・ロマンス」のYouTubeコメントの9割は日本語です。
海外人気が高い大橋純子「テレフォン ・ ナンバー」のYouTubeコメントは2割が日本語、8割が海外からのコメントです。
発売当時、日本でヒットした曲は、現在の海外リスナーに刺さらないという現象が起きています。
海外でのCITY POP人気曲・定番曲は、日本ではいまいちヒットしなかったシングルA面、もしくは隠れた名曲扱いのシングルB面、アルバム収録の(日本のファンからすると)ちょっと地味な曲などが多いです。
この現象を大橋純子は次のように話しています。
あのころの私たちは外国の音楽が目標でした。基本的に外国の曲がお手本。だから海外の方が私たちの曲を聴いて、素直に吸収してくれているのもわかるような気がします。特にアルバム用の曲は、自分たちが求めるセンスで作れた。海外の方もそこに気がついているんですね。
引用:【林哲司デビュー50周年 名ポップメーカーの秘密】歌手・大橋純子「あのころは外国の曲がお手本だった…私たちの音楽を海外の方が吸収してくれた」 zakzak by 夕刊フジより
発売当時日本の市場向けにヒットを狙ったシングル曲、日本人好みに作ったシングル曲ではなく、アルバム収録曲が海外のCITY POPファンにウケている。
当時のCITY POPアーティストは、アルバム収録曲やシングルB面曲では洋楽志向で作ることができた。
自分たちが求めるセンスで作ったものをアルバムやシングルB面曲に収録していた。
お手本にした「外国の曲」のニュアンスを、今の海外のファンが感じとっているのだろう、という趣旨の発言だと思います。
海外で人気の「あの曲」は発売当時日本でヒットしたか?
海外で人気が高いCITY POPといえば、竹内まりや「プラスティック・ラブ」、松原みき「真夜中のドア~Stay With Me」、泰葉「フライディ・チャイナタウン」。
この3曲は日本でも有名じゃないかというご意見もあると思います。
しかし、この3曲は発売した当時はヒット曲とまでは言えず、売上げとしてはスマッシュヒットと呼べるかどうかという感じでした。
各アーティストのファンや、和モノDJの間では有名でしたが、ライトな一般リスナー層にまでは知られていませんでした。
竹内まりや「プラスティック・ラブ」、松原みき「真夜中のドア~Stay With Me」は、2010年代後半に海外で突然爆発的に再生数が伸びたことで、日本のマスコミでも「シティポップ・ブーム」として取り上げられ、逆輸入の形で日本のリスナーに広がっていきました。
泰葉「フライディ・チャイナタウン」は、ご本人がお騒がせタレントとしてテレビで取り上げられると、必ずこの曲が流れていたため耳馴染みがある方も多いと思います。
最近は海外人気の逆輸入で日本人のTikTokユーザーが「フライディ・チャイナタウン」を使っています。
そのショート動画を見た日本の視聴者が「この曲は泰葉だったのか」と驚いています。
海外で定番の名曲シティポップ:眩しくて悲しくて踊れる曲=エモい曲
不思議なことに海外人気が高いCITY POPは悲しい歌が多いです。
泰葉「フライディ・チャイナタウン」は中国人街にいる日本人の私は異国人だと歌っています(作詞 : 荒木とよひさ)。
「フライディ・チャイナタウン」収録 ベストアルバム |
杏里「悲しみがとまらない」は、女友達に恋人を紹介したらその恋人を奪われてしまい、「彼を返して」と歌っています(作詞:康珍化)。
この2曲に共通しているのは、テンションが上がって爆踊りできる曲なのに何故か歌詞が悲しいことです。
海外人気のCITY POPは悲しい歌詞
これは「フライディ・チャイナタウン」「悲しみがとまらない」だけではありません。
海外で人気があるCITY POPは、何故か歌詞が悲しいものが多いです。
失恋や孤独感を歌う曲が多いです。
「真夜中のドア~Stay With Me」の歌詞は、別れた恋人(恐らく不倫関係)との偶然の再会に動揺する女性を描いています(作詞:三浦徳子)。
「真夜中のドア~stay with me」「あいつのブラウンシューズ」収録。 |
「プラスティック・ラブ」は、別れた恋人の面影を無意識に探し、派手な服装で都会のディスコで踊る女性を描いています(作詞:竹内まりや)。
「プラスティック・ラブ」収録 3枚組人気ベストアルバム |
海外のリスナーのほとんどは、日本語の意味を理解していないと思われるので、悲しい歌詞を聞きたいというよりは、たまたま好きなタイプのメロディがセンチメンタルな曲が多いのでしょう。
海外のファンが好む曲は明るくハッピーな曲ではなく、ゆったりしたグルーヴ感のある曲、雰囲気に酔うエモい曲だからです。
どこか寂しげなフレーズがメロディに入っているせいか、インスパイアされて歌詞も自然と悲しいストーリーになるようです。
CITY POPの多くは、タイトルやサビの歌詞に、キャッチーでインパクトのある英語を使うことが多いです。
「Stay With Me(一緒にいてほしい)」
「I can’t stop the loneliness(悲しみがとまらない)」などなど。
海外のファンはシティポップに「ノスタルジー」を感じている
YouTubeのコメント欄を読むと、頻繁に書きこまれるキーワードが「ノスタルジー」です。
CITY POPを海外で聞くのは、いわゆるZ世代、主に20代が多いです。
彼らが知らない、経験したことがない80年代の日本、豊かだった時代のノスタルジーをCITY POPを聞くことで感じるそうです。
知らない国日本の曲なのに、なぜか懐かしさとノスタルジーを感じるというコメントをよく見かけます。
海外のファンが求める「80年代へのノスタルジー」については、こちらの記事:シティポップ人気ランキング!日本と海外こんなに違う!? で詳細に紹介しています。
あるプレイリストの紹介文にCITY POPのことを「A dazzling but very sad feeling
(眩しいけど、とても悲しい気持ち)」と書いていました。
都会の眩しいキラキラ感がありながら、悲しい、せつない恋を歌う曲がウケているようです。
そして「悲しい」「懐かしい」だけではなく、「踊れる曲」であることが海外のファンにとって重要です。
海外でCITY POPを聞くのは誰か?
CITY POPブームは海外の音楽ファンの誰もが知っているような大ブームではありません。
一部の音楽ファンの間で起きたブームです。
そのブームから徐々に音楽のひとつのジャンルとして定着していきました。
アメリカのビルボードの上位はR&Bやヒップホップが占める時代が30年程続いています。
テンポの早い曲や、リズムを刻んだり、ラップを刻む曲に疲れた層にとって、日本のCITY POPは新鮮だったのでしょう。
テンポが早く、まくし立てるように歌うボーカルを聞くのに疲れたリスナーたちが、柔らかな発音の日本語で歌う、ゆったりしたグルーヴのCITY POPを聞くようになったのではないかと思われます。
センチメンタルやノスタルジーを求める層にCITY POPがフィットしたのでしょう。
注釈
Vaporwave(ヴェイパーウェイブ)
2010年代にインターネット上に生まれた音楽ジャンル。
大量に生産と消費を繰り返した80年代の忘れ去られた人工物などへの郷愁、消費資本主義社会への批判や風刺を込めた音楽。
80年代のポップミュージックのスピードを落とし、スローな音楽にして、延々とループさせるのが特徴。
そのサンプリング素材に世界各国の音楽が使われたが、日本のCITY POPも好んで使われた。
YouTubeに紫や水色などのネオンカラー、レトロなグラフィック、無機質な彫刻などの画像、不自然な翻訳の日本語などと共に投稿される。
Future Funk(フューチャーファンク)
Vaporwaveから派生した音楽ジャンル。
主に日本のCITY POPや歌謡曲など80年代の音楽のスピードを上げ、エレクトロニックなディスコサウンドに再構築している。
歌声もボカロ(ボーカロイド)のように加工している。
Vaporwaveに比べ、明るく踊れる曲にしているのが特徴。
YouTubeには、日本のアニメ画像や、コカ・コーラなどの80年代CMとともに投稿されることが多い。
アニメ映像やCM映像を3~5秒ほど切り抜いて、ループさせた動画にFuture Funkが流れる。
作業用BGMとして人気のローファイヒップホップ(Lo-fi Hip Hop)にも、短いアニメをループさせる映像の手法が定番になっている。
Vaporwave・Future Funkともに著作権的には大分グレーなジャンルだが、日本のCITY POPが海外に広まるきっかけになった。
YouTubeに投稿されたVaporwave・Future Funkを聞いた海外のリスナーが、原曲のCITY POPを聞くようになったといわれている。