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海外のファンが求めるシティポップは踊れる曲
このブログで一番読まれている記事は、シティポップ人気ランキング!日本と海外こんなに違う!? です。
その記事で紹介した海外で人気のシティポップ・アーティスト・ランキングが下記です。
世界が愛するシティポップアーティスト『ザ・トップテン』
出典:「海外シティポップ・ファンダムのルーツと現在地」(モーリッツ・メソ, 加藤賢) 柴崎祐二編著『シティポップとは何か』(河出書房新社)収録
1位 山下達郎
2位 杏里
3位 竹内まりや
4位 角松敏生
5位 松原みき
6位 大貫妙子
7位 大橋純子
8位 菊池桃子
9位 中原めいこ
10位 杉山清貴&オメガトライブ
上記の「世界が愛するシティポップアーティスト『ザ・トップテン』」は、日本テレビ『世界一受けたい授業』(2022年6月4日放送)で紹介されたもので、このランキングが発表されると、SNSがざわつきました。
大瀧詠一とユーミンがベストテンに入ってないの!?
菊池桃子がCITY POPなの!?
上記の記事と、下記の海外のシティポップファンは日本のヒット曲を聴かない⁉人気曲は何⁇ の記事でも紹介していますが、海外のCITY POPファンが好きなタイプの曲は、キラキラして豪華だけど、どこか悲しい「踊れる曲」「ノレル曲」です。
メロウでアーバン、ダンサブルでグルーヴ感のある曲と言いかえることもできます。
海外のCITY POPブームの火付け役となった竹内まりや「プラスティック・ラブ」が人気の理由は、どこか悲しい「踊れる曲」だからです。
竹内まりやの「駅」や「いのちの歌」が日本では人気曲なのに、海外で聴かれていないのは悲しいけれど「踊れない曲」だからです。
大瀧詠一『ロング・バケイション』はシティポップではない??
なぜ大瀧詠一が海外で聴かれていないのかは、2022年9月号『レコード・コレクターズ』の「シティ・ポップの再定義」に書かれています。
加藤賢氏の記事「『ロング・バケイション』は“シティ・ポップではない”のか?」に詳細に書かれていて、海外で大瀧詠一がウケない理由をズバリ「踊れないから」と指摘しています。
この記事ではSpotifyのデータを基に、大瀧詠一を聴いているリスナーはほとんどが日本であり、海外では聴かれていないと紹介しています。
海外のファンにとってCITY POPは、ディスコ・ファンク・ソウル・フュージョン的なノレるサウンド、ダンスミュージックの要素が強いものです。
永井博のアートワークも含め、大瀧詠一の「A LONG VACATION」は日本ポップスの傑作であり、象徴でもあり、金字塔のひとつといえるでしょう。
しかし、ノスタルジックでオールディーズ的なこのアルバムは、海外のCITY POPファンにとっては踊れないサウンドなのです。
40周年記念2枚組CD。「君は天然色」「カナリア諸島にて」収録。イラストジャケットは永井博。特典はロゴステッカー。 |
海外で人気が高いCITY POPのYouTube動画のコメント欄を見ると、日本語よりも英語コメントで溢れています。
その他スペイン語・アラビア語・ポルトガル語・韓国語・ロシア語なども書き込まれています。
「Last Summer Whisper」収録アルバム。角松敏生・小林武史・ブレッド&バター楽曲提供。 |
無許可でアップロードされた杏里「Last Summer Whisper」の非公式動画は2024年9月の段階で2,270万回再生されています。
その8,800のコメントを見ると、日本語は2割程度、8割のコメントは多国籍言語で埋め尽くされています(下記2本は公式動画です)。
大瀧詠一「君は天然色」の公式MVは2,083万回再生され、4,200のコメントが書かれていますが、その9割が日本語です。
サンプリング素材のCITY POP / サンプリングされない大瀧詠一
海外でシティポップ・ブームが起きたきっかけは、サンプリング素材として使われて広まったからだと言われています。
Future Funk系のDJ、R&Bやヒップホップ・アーティストがサンプリング・リミックスしたくなる曲。
ループ構造に適したフレーズがある曲が、海外でのCITY POP人気曲の指標の一つとも言えるでしょう。
サンプリングした曲、もしくはサンプリングされた曲を検索できるサイト「WhoSampled」をご存知ですか?
「WhoSampled」(2024年9月現在)によると、大瀧詠一をサンプリングした曲は2曲です。
「大瀧詠一をサンプリングした曲」と表示されるのは、大瀧詠一がアルバム『SONGS』をプロデュースした、シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」(1975)をサンプリングした2曲です(作曲は山下達郎)。
山下達郎、大貫妙子が在籍したバンド・シュガー・ベイブ唯一のアルバム。不朽の名作「DOWN TOWN」収録。 |
「WhoSampled」では、大瀧詠一名義の作品でサンプリングされた曲は、いまのところゼロです。
菊池桃子をサンプリングした曲は83曲です。
記事冒頭で紹介した「世界が愛するシティポップアーティスト『ザ・トップテン』」で1位の山下達郎をサンプリングした曲は283曲(そのうちの約半数が竹内まりやをプロデュースした曲)、2位の杏里をサンプリングした曲は131曲です。
「世界が愛するシティポップアーティスト『ザ・トップテン』」は柴崎祐二編著『シティポップとは何か』(河出書房新社)収録「海外シティポップ・ファンダムのルーツと現在地」(モーリッツ・メソ, 加藤賢)のアンケート結果です。
実際には、このアンケートは同率票も含め17位まで発表されていますが、大瀧詠一は順位表の圏外(0.2%得票)です。
これは大瀧詠一だけではなく、CITY POPの象徴的なアーティスト南佳孝、寺尾聰、杉真理もランキング外です。
このランキングの票全体の50%がトップ5のアーティストに集中していて、特に1位の山下達郎、2位の杏里に人気が集中しています。
海外のファンが求めるCITY POP、ディスコ ・ ファンク ・ ブギー・フュージョン的な「踊れる曲」「ノレるサウンド」が山下達郎であり、杏里なのです。
山下達郎と杏里の海外人気については、こちらの記事:【山下達郎・杏里】シティポップキング・クイーン!なぜ海外で人気? で紹介しています。
日本では大瀧詠一とともに、元祖シティポップ的な存在のユーミンが、なぜ海外でCITY POPの文脈では聴かれていないのかは、こちらの記事:単純化された記号 なぜ海外でユーミンはシティポップではないのか? で考察しています。
恐るべし!作曲家・林哲司!
記事の冒頭で紹介した世界が愛するシティポップアーティスト『ザ・トップテン』。
この10人のうち中原めいこを除いた9人のアーティストは、大きく3つのグループに分けられます。
山下達郎グループ
山下達郎・竹内まりや・大貫妙子
角松敏生グループ
角松敏生・杏里
林哲司グループ
松原みき・菊池桃子・杉山清貴&オメガトライブ・大橋純子・竹内まりや・杏里
竹内まりやは山下達郎の妻であり、プロデューサーが山下達郎です。
大貫妙子は山下達郎とバンド、シュガー・ベイブを組んでいました。
角松敏生は杏里のプロデューサーでした。
2024年角松敏生最新アルバム。自ら最後のリスタートと位置付けるシリーズ第1作目。 |
林哲司グループの松原みき・菊池桃子・杉山清貴&オメガトライブ・大橋純子・竹内まりや・杏里は、林哲司から楽曲提供を受けています。
菊池桃子と杉山清貴&オメガトライブが発表した曲の多く(というよりはほとんど)は、林哲司が手掛けていて、非常に林哲司色が強いです。
海外で人気のシティポップ・アーティスト・トップテンのうち6人が林哲司作品を歌っています。
恐るべし林哲司です。
大橋純子を除いた5人に林哲司が提供したシングル曲は、当時の日本でヒットしました。
そして現在の各アーティストの代表曲でもあります。
松原みき 真夜中のドア〜stay with me
菊池桃子 卒業-GRADUATION-
杉山清貴&オメガトライブ ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMER
竹内まりや SEPTEMBER
杏里 悲しみがとまらない
80年代当時、アーティストやアイドルに提供した曲が日本でヒットし、2010年代後半からのシティポップブームでも、林哲司作品が海外でブレイクしています。
林哲司、末恐ろしいです。
2022年9月号『レコード・コレクターズ』の「シティ・ポップの再定義」の柴崎祐二氏による巻頭記事「質の異なる段階へ突入した”シティ・ポップ・リヴァイヴァル″」では、現在海外で聴かれているシティポップについて言及しています。
「現在巻き起こっているリヴァイヴァルに重きが置かれているのは、明らかに “80年代以降のメロウでダンサブルなサウンド” の方である」
引用:「質の異なる段階へ突入した”シティ・ポップ・リヴァイヴァル″」(柴崎祐二) 『レコード・コレクターズ』2022年9月号収録
「むしろこれまで『ミュージック・マガジン』等の “マジメな” ロック / ポップ批評では妙に軽視されがちだったアーティスト、たとえば杏里や角松敏生、オメガトライブ一派など、さらには菊池桃子等のアイドルが歌う楽曲が積極的に聴かれているという状況があるのだ」
頻繁にテレビ出演して、大衆的な人気があったアーティストやアイドルの曲は日本の“マジメな” ロック / ポップ批評では扱いが低かったのは事実でしょう。
日本の音楽評論家やマジメな音楽ファンから軽視されてきたアーティストたちが、現在「シティポップ」として海外で評価されています。
「オメガトライブ一派など、さらには菊池桃子等」というのは林哲司の作曲作品と言い換えることができます。
軽視されてきたアーティストやアイドル達と同様に、日本の音楽評論家やマジメな音楽ファンからは、職業作曲家も軽視されがちでした。
スカートの澤部渡が「CITY POPとは林哲司である」と語ったことがありましたが、決して大げさな発言ではないでしょう。
海外のシティポップムーブメントの中心に林哲司がいるのは間違いありません。
デビュー50周年を迎えた作曲家・林哲司のアニバーサリー公式本。 竹内まりや、ヒャダインとのポップス談義など貴重な対談も収録。 |
菊池桃子はシティポップ? ラ・ムーは黒歴史⁉
なぜ海外では菊池桃子がシティポップの定番なのか?
それはズバリ、林哲司が楽曲提供しているからです。
まさにシティポップと呼ぶのに相応しい曲が満載です。
菊池桃子が新曲を含むコンセプトアルバムをリリース! 35年ぶりに林哲司との共同制作が実現 |
「いやいや、菊池桃子は80年代アイドルの中でも歌は下手だったでしょう?」「ラ・ムーは黒歴史でしょ?」という読者の方もいるでしょう。
ぜひ一度菊池桃子とラ・ムー(ラ・ムーのメインライターは和泉常寛)のアルバムを聴いてください。
めちゃくちゃ気持ちいいから! 心地よいから! お洒落だから!
ブラコン(ブラック・コンテンポラリー)としてカッコいいから!
海外のファンは菊池桃子の声にも魅了されています。
YouTubeのコメント欄には、海外のファンによる「桃子の声が好きだ」「彼女の声は美しい」「まるで天使の声」というコメントが書きこまれています。
40周年記念ベストアルバム |
ゆったりしたグルーヴ感の曲を、菊池桃子のおっとりしたウィスパーボイスで柔らかく歌うのが、海外のファンには新鮮に聞こえるのだと思います。
菊池桃子のウィスパーボイスについては、こちらの記事:「海外人気のCITY POPボーカル 日本語の柔らかな美しい発音」で書いています。
海外でCITY POPが聞かれるようになったきっかけが、CITY POPをディスコサウンドに再構築したFuture Funkだと言われています。
Future Funkの第一人者であり、韓国の人気DJ・Night Tempoは、公式にFuture Funkにした昭和グルーヴ・シリーズで菊池桃子とラ・ムーをリエディットしています。
「これはもう洋楽だよね」の大瀧詠一 / 新鮮な驚きの菊池桃子
元プリンセスプリンセスの岸谷香がラジオで大瀧詠一「君は天然色」をかけた時に、ほめ言葉として「これはもう洋楽だよね」と発言したことがありました。
日本の市場向けに作った洋楽っぽい曲ではなく、「洋楽そのものだ」、「洋楽と遜色がない」というニュアンスの発言だったと思います。
「洋楽そのもの」ということは、海外のリスナーからすると、どこかで聴いたことがある、既視感がある音楽と言い換えることもできると思います。
それに対し、海外のリスナーが菊池桃子を聴くと新鮮な驚きがあるのだと思います。
日本の80年代の歌番組を見ていた世代にとって、記憶にある菊池桃子は、危なっかしい音程で歌うアイドル歌謡のイメージでしょう。
シングルではアイドルとして売れることを意識した曲を発表していました。
しかし、菊池桃子とラ・ムーのアルバム収録曲は、所属事務所トライアングル・プロダクション代表であり、プロデューサーでもある藤田浩一の意向で、洋楽志向の曲、AOR、ブラック・コンテンポラリー、ファンク・ソウルテイストの曲が収録されています。
プロデューサー・藤田浩一
林哲司は菊池桃子の声の魅力について、次のように話しています。
逆に言うと、言い方は悪いかもしれないですけど、ヘタウマ感がああいうサウンドの中で独特の感覚になっていきましたね。すごく歌がうまい人が歌うと違うテイストのものになると思うんですけど、こちらがコテコテのソウルっぽい曲を書いたとしても、菊池桃子さんのあの歌声によって爽やかな色合いが出るんですよ。
引用:作家インタビュー 第05回 林哲司さん 日本テレビ音楽株式会社 HPより
ゴリゴリのファンクやソウルテイストの曲を、囁くようなウィスパーボイスで歌うギャップに、海外のファンは新鮮な驚きを感じ、魅了されたのだと思います。
菊池桃子が平板な歌い方をしているのも、日本語を歌うのに適していたのでしょう。
菊池桃子の歌い方は、日本語が柔らかく聞こえ、言葉が聞きとりやすく、日本語が美しく聞こえます。
菊池桃子の楽曲の演奏は、当時の凄腕ミュージシャンたち(ギター:松原正樹・ドラム:青山純・キーボード:難波正司・パーカッション:斎藤ノブ・コーラス:国分友里恵など)が参加しているため、サウンド面でも聞きごたえがあります。
コーラスは、彼女と同じ事務所トライアングル・プロダクション所属のオメガトライブが参加している作品もあるため、アルバムを通して聴くと菊池桃子&オメガトライブと呼びたくなるほどです。
菊池桃子も杉山清貴&オメガトライブも、プロデューサーが藤田浩一、主に林哲司が作曲と共通項が多いため、菊池桃子の曲を杉山清貴&オメガトライブが歌い、演奏をしたとしても全く違和感がありません。
「トライアングル・サウンド」的なAORサウンド、シンセサウンドは90年代に入ると日本では下火になっていきます。
しかし、2010年代後半に起きたシティポップ・ブームでは、藤田浩一が目指した音楽のイメージ「夏」「海」「リゾート」「ドライブ・ミュージック」「AORサウンド」が海外でウケました。
プロデューサー藤田浩一の慧眼に驚かされます。
残念ながら2009年にお亡くなりになりましたが、もしご存命だったら「シティポップ・ブーム」についてどう思うか、ぜひ訊いてみたかったです。
注釈
Future Funk(フューチャーファンク)
Vaporwaveから派生した音楽ジャンル。
主に日本のCITY POPや歌謡曲など80年代の音楽のスピードを上げ、エレクトロニックなディスコサウンドに再構築している。
歌声もボカロ(ボーカロイド)のように加工している。
Vaporwaveに比べ、明るく踊れる曲にしているのが特徴。
YouTubeには、日本のアニメ画像や、コカ・コーラなどの80年代CMとともに投稿されることが多い。
アニメ映像やCM映像を3~5秒ほど切り抜いて、ループさせた動画にFuture Funkが流れる。
作業用BGMとして人気のローファイヒップホップ(Lo-fi Hip Hop)にも、短いアニメをループさせる映像の手法が定番になっている。
Vaporwave・Future Funkともに著作権的には大分グレーなジャンルだが、日本のCITY POPが海外に広まるきっかけになった。
YouTubeに投稿されたVaporwave・Future Funkを聞いた海外のリスナーが、原曲のCITY POPを聞くようになったといわれている。