海外で人気のCITY POPボーカリストの特徴を紹介します
しろくろの私感では4種類あると思っているよ
海外で人気のCITY POPボーカリスト・4つの特徴
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①綺麗な高音で張りがあり、伸びやかな声。一音一音ハッキリと発音をする。
山下達郎・杏里・大貫妙子・杉山清貴・泰葉・八神純子・大橋純子・中原めいこなど
②アンニュイな雰囲気で日本語と英語を柔らかく歌う
菊池桃子・カルロス・ トシキ・具島直子など
③ジャジーな雰囲気で日本語と英語を柔らかく歌う
松原みき・笠井紀美子・秋本奈緒美など
④ ①②③の混合型であり、低音も魅力的な声
竹内まりや・吉田美奈子・間宮貴子・亜蘭知子・国分友里恵・秋元薫など
①~④のボーカリストには共通点があります。
- 明瞭に言葉が聞き取れる。
- 日本語と英語の発音を綺麗に歌い分ける。
- 軽やかで爽やかな歌声なのに、どこか寂しげで、ほのかな哀愁を感じさせる声。
クセのない歌い方で、基本的にはエモーショナルに歌わない
CITY POPでエモーショナルに感情を込めるボーカリストは少数です。
海外で人気のCITY POPアーティストで、しゃがれた声やクセがある歌い方、シャウトするタイプのロック系ボーカリストも、ほぼいません。
ポップスのメロディに日本語で情感を込め、抑揚をつけて歌うと演歌・歌謡曲っぽくなってしまいます。
ほとんどのシティポップ・アーティストは、感情が伝わるボーカルですが、派手な抑揚は付けずにスムーズに歌います。
なかには淡々とクールに歌い、一本調子に聴こえるアーティストもいますが、それが個性となり、魅力となっています。
日本語を英語っぽく歌わない
日本語を英語っぽく歌おうとすると、子音を刻むような歌い方になります。
しかし、CITY POPアーティストには、子音を強調する歌い方をするボーカリストは、ほぼいません。
日本語は子音のバリエーションが少なく、英語は子音のバリエーションが多いのが特徴です。
日本語を英語っぽく歌おうとすると……
例えば「歌」を英語っぽく歌おうとすると……
「うツゥァァァ」と子音を刻むような歌い方になります
それに対し、多くのCITY POPアーティストは……
「うたぁーーー」 と伸びやかに歌います
ビブラートは控えめに、母音を伸びやかに歌う、もしくは母音の余韻を残す歌い方をしています。
子音を強調した歌い方は当然英語の方が合っています。
日本語を理解していない海外のリスナーに人気があるのは、日本語を綺麗に発音するタイプのボーカリストです。
山下達郎 ・ 竹内まりや ・ 杏里 ・ 八神純子など、CITY POPアーティストは、オリジナル曲で全編英語詞の歌もあります。
ネイティブ並みの発音でオリジナル英語詞を歌っています。
しかし、山下達郎、竹内まりや、杏里、八神純子の海外での人気曲の多くは日本語詞の曲です。
海外のファンは日本語が明瞭に聴こえる曲が好き?
海外のCITY POPファンは、全編英語の歌詞を聞きたいとは思っていないのでしょう。
恐らく海外のファンは、日本語を音として捉えているのだと思います。
一音一音ハッキリと発音し、日本語の母音がクリアに聞こえるボーカル、もしくはアクセントが強くない、柔らかい日本語のボーカルが心地よく聞こえるのだと思います。
言葉がハッキリ聞こえるボーカルは、例えば大橋純子「テレフォン・ナンバー」。
柔らかく日本語を歌うボーカルは、例えば亜蘭知子「I´m in Love」。
アンニュイに歌っていますが、きちんと言葉が聞き取れます。
海外のファンは日本語の歌詞が聴きたくて、CITY POPを聴いているのでしょうか?
恐らく違うでしょう。
どちらかというと、海外のファンが求めるタイプの曲が、たまたまスムーズに日本語がフィットするタイプの曲だったのでしょう。
同時に日本語の響きの心地よさを知ったのだと思います。
英語のようにアクセントの強弱がハッキリした言語の国の人たちからすると、日本語の発音は不思議な言語、癒される響きなのだと思います。
私たち日本人が、流れるようなフランス語の発音や、シャンソンの歌を聞くと、不思議な発音に癒されたり、異国情緒を感じるのと同じなのかもしれません。
またCITY POPの歌詞は、サビでキャッチーな英語が使われることが多いです。
泰葉「フライディ・チャイナタウン」は、サビで「It´s so Fly-day Fly-day China Town」と繰り返します。
海外のCITY POPファンは英語圏のリスナーも多いため、英語は英語として綺麗な発音であることが同時に求められるのでしょう。
海外のCITY POPイベントの楽しみ方
海外のCITY POPイベントでは、観客がサビの英語歌詞を叫ぶのが定番だそうです。
松原みきの「真夜中のドア〜stay with me」であれば、サビの「stay with meー‼」と大声で叫ぶことで、爆発的な一体感が得られて楽しいとのこと。
2023年6月にロサンゼルス・ハリウッドのフォンダ・シアターにて、日本の食と文化を紹介するイベント「Moon in the Sky」で、杏里がライブをおこないました。
観客は現地の20~30代の若い世代が多かったとのこと。
ロサンゼルス・ハリウッドの杏里ライブに参加した観客が、スマホで撮影した動画をインスタグラム、Twitter(現在のX)などSNSに投稿していました。
当日の興奮と盛り上がりが伝わる映像です。
そして驚くことに、杏里に合わせて日本語歌詞を一緒に歌い、叫ぶファンが多いことです。
「悲しみがとまらない」では、アメリカの観客が英語歌詞「I Can´t Stop The Loneliness!!」と叫んだあと、日本語でハッキリと「かぁなぁしぃーみーがぁーとぉーまぁーらぁーなぁーいー!!」と歌っています。
杏里は、日本語も英語も一音一音クリアな発音で歌うボーカリストです。
アメリカのファンは、日本語を音として聞き取ることができたので印象的な日本語歌詞を歌うことができたのでしょう。
【シティポップ・唄歌の共通点】日本語の明瞭な発音・柔らかく美しく響かせる
海外のリスナーが好きなCITY POPは、ゆったりしたグルーヴ感のある曲で、雰囲気に酔いやすいミディアムテンポのエモい曲、メロウでアーバンな曲、AOR的な曲です。
詳しいことは、海外のファンが好きなタイプの曲を解説した記事:海外のシティポップファンは日本のヒット曲を聴かない⁉人気曲は何⁇ をお読みください。
海外ウケするCITY POPは、柔らかい日本語がハマりやすい曲です。
「春の小川」「ふるさと」「ちいさい秋みつけた」など、日本の唱歌・童謡の歌詞は、日本語の特性(母音で終わることが多い・音節が少ない・子音のバリエーションが少ない)を生かしているので、日本語の響きが美しく聞こえます。
日本の唄歌はゆったりした曲が多く、日本語を柔らかく歌い、一音一音ハッキリと聞こえる歌い方です。
そして、情感を込めるというよりは、よい意味で平板な歌い方、一本調子です。
海外でのCITY POP人気曲の特徴と一致します。
シティポップも唄歌も“懐かしい”
日本人が唄歌を聞くと「懐かしい」と郷愁を感じます。
海外のファンがCITY POPを語る時に、頻繁に登場するキーワードが「ノスタルジー」です。
「80年代のCITY POPを聞くと、その時代の日本を知らないのに、何故かノスタルジーを感じるんだ」と語る海外のリスナーが多いです。
海外のファンが求めるノスタルジーについてはこちらの記事:シティポップ人気ランキング!日本と海外こんなに違う!? で紹介しています。
もちろん、80年代的なメロディ、シンセサイザーを強調した80年代特有のサウンドにノスタルジーを感じることが大きいのでしょう。
ただ、その80年代サウンドとともに、CITY POPボーカリストが歌う柔らかな日本語に、不思議な異国情緒や懐かしさを感じているのかもしれません。
BGM・Chill Music・AORとしてのシティポップ
ゆったりしたミディアムテンポは長時間聞くのに適しています。
日本語を柔らかく歌うタイプのボーカリストの声は耳が疲れないのでBGMに適しています。
CITY POPを作業用BGMとして長時間聞くリスナー、Chill Music(チル・ミュージック)としてまったり聞きたいリスナーには、柔らかな日本語の発音のボーカルは心地よく感じるのだと思います。
菊池桃子はシティポップ? ラ・ムーは黒歴史⁉
もしかしたら「菊池桃子はアイドルでしょ」「菊池桃子はCITY POPなの?」と不思議に思う読者の方もいるかもしれません。
インターネット上で「ラ・ムーは菊池桃子の黒歴史」と書かれたコメントを頻繁に見かけます。
とんでもない‼
今、菊池桃子のソロ名義の曲、ラ・ムーの楽曲は海外ではCITY POPの名曲として聞かれています。
ぜひ菊池桃子とラ・ムーのSpotifyを聴いてください。
めちゃくちゃお洒落だから‼
ボーカルも心地よいから‼
菊池桃子とラ・ムーの曲の多くは、林哲司と和泉常寛が手掛けています。
林哲司と和泉常寛は、オメガトライブに楽曲提供してきた作曲家です。
菊池桃子とオメガトライブは、同じ制作スタッフが手掛けています。
菊池桃子とラ・ムーの曲は、海外のCITY POPファンが好むお洒落な曲であり、ブラック・コンテンポラリーでもあるのです。
ファーストアルバム『OCEAN SIDE』 |
プロデューサーの藤田浩一は、菊池桃子のアルバムを「大学生が持っていてもおかしくないようなジャケットとサウンドにしたい」というコンセプトで作りました。
セカンドアルバム『TROPIC of CAPRICORN 〜南回帰線〜』 |
当時、アイドルのアルバムジャケットといえば、アイドルが真正面を向いてニコッと笑った顔の、どアップの写真でした。
それを、あえて菊池桃子の顔が小さく写った写真、風景のイメージを優先したお洒落なジャケットにしました。
海外のファンは菊池桃子のウィスパーボイスが好き
YouTubeのコメント欄を見ると、海外のファンによる「桃子の声が好きだ」「彼女の声は美しい」「まるで天使の声」というコメントがあり、菊池桃子の声が評価されているのが分かります。
80年代をリアルタイムで知る日本人からすると「歌はいまいちだったよね」という印象かもしれません。
菊池桃子の声質は柔らかく、話し方もおっとりしています。
菊池桃子に合わせて音域も狭く、メロディもゆったりしたものが多いです。
80年代に流行ったブラコン(ブラック・コンテンポラリー)は、パワフルなボーカリストが主流でした。
ゆったりしたグルーヴ感の曲を、菊池桃子のおっとりしたウィスパーボイスで柔らかく歌うのが、海外のファンには新鮮に美しく聞こえるのだと思います。
菊池桃子が平板な歌い方をしているのも日本語を歌うのに適していたのでしょう。
林哲司は菊池桃子のボーカルについて、次のように話しています。
逆に言うと、言い方は悪いかもしれないですけど、ヘタウマ感がああいうサウンドの中で独特の感覚になっていきましたね。すごく歌がうまい人が歌うと違うテイストのものになると思うんですけど、こちらがコテコテのソウルっぽい曲を書いたとしても、菊池桃子さんのあの歌声によって爽やかな色合いが出るんですよ。
引用:作家インタビュー 第05回 林哲司さん 日本テレビ音楽株式会社 HPより
海外のファンは菊池桃子が歌う、柔らかい日本語に癒されているのでしょう。
海外でCITY POPを聞くのは誰か?
CITY POPブームは海外の音楽ファンの誰もが知っているような大ブームではありません。
一部の音楽ファンの間で起きたブームです。
そのブームから徐々に音楽のひとつのジャンルとして定着していきました。
アメリカのビルボードの上位はR&Bやヒップホップが占める時代が30年程続いています。
テンポの早い曲や、リズムを刻んだり、ラップを刻む曲に疲れた層にとって、日本のCITY POPは新鮮だったのでしょう。
テンポが早く、まくし立てるように歌うボーカルを聞くのに疲れたリスナーたちが、柔らかな発音の日本語で歌う、ゆったりしたグルーヴのCITY POPを聞くようになったのではないかと思われます。
そして、センチメンタルやノスタルジーを求める層にもCITY POPはフィットしたのでしょう。