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なぜ突然バズって、海外で人気曲に?
ニューアルバム『Precious Days』が発売され、竹内まりやが精力的にテレビ・ラジオ・インタビューなどで宣伝活動をしています。
山下達郎・杏里とのコラボ曲も収録。 |
2024年10月27日、BSフジで『アワー・フェイバリット・ソングVol.8~私が「プラスティック・ラブ」を愛する理由』が放送されました。
そもそも「プラスティック・ラブ」が突然海外でバズったのは何故か?
諸説ありますが、一般的に言われているのは、2017年に海外のファンが作成した竹内まりやの「プラスティック・ラブ」の非公式動画(現在は著作権を理由に削除されている)が、YouTubeのアルゴリズムの気まぐれで、爆発的に再生されたことがきっかけと言われています。
YouTubeのアルゴリズムの気まぐれで大量におすすめ表示をされたとしても、肝心の曲がYouTubeユーザーの琴線に触れなければ、それ以上の広がりはなかったはずです。
では、「プラスティック・ラブ」の何が、海外リスナーの心を掴んだのでしょうか?
『アワー・フェイバリット・ソングVol.8~私が「プラスティック・ラブ」を愛する理由』と、MBS毎日放送系列「日曜日の初耳学」による竹内まりやのインタビューを見て、バズった理由は下記の4つかなと思いました。
①「プラスティック・ラブ」はグルーヴィーな16ビート
②日本のミュージシャンによる正確なリズム・グルーヴ感
③日本語歌詞と英語歌詞のバランスの良さ
④「達郎が歌いそうな曲を書いてみよう」
それでは具体的に考察していきましょう。
理由①「プラスティック・ラブ」はグルーヴィーな16ビート
竹内まりやの日本での人気曲といえば「元気を出して」など、王道のスタンダード・ナンバー、口ずさみやすいメロディが多いです。
ところが「プラスティック・ラブ」は、竹内まりやの楽曲では珍しいグルーヴィーな16ビートのディスコサウンド。
16ビートは、R&Bやダンスミュージックに使われるリズム。
R&B、ダンスミュージック、ヒップホップが好きな若い世代に、馴染みがある16ビートの「プラスティック・ラブ」が刺さったのでしょう。
若手ミュージシャンによる「プラスティック・ラブ」のカバーの多くは、打ち込みっぽいサウンド、ボーカルもクールな歌い方がほとんどです。
自分流にクールなイマドキっぽいサウンドにしたくなるのが「プラスティック・ラブ」なのでしょうね。
そもそも韓国のDJ・Night Tempoが、Future Funkにリエディットした「プラスティック・ラブ」が、YouTubeで爆発的に再生されたことがきっかけで海外に広まりました。
「プラスティック・ラブ」収録アルバムの30周年記念盤。音源のリマスターに加え、新たに7曲のボーナス・トラックや竹内まりや本人による解説を追加。 |
竹内まりやによると、作曲するときに今までにないダンサブルな曲を意識したそうです。
達郎の仕事場にあった4トラックのカセット・レコーディング機の使い方を覚えた私は、リズムマシンを16ビートで鳴らしながら、今まで書いたことのないタイプのダンサブルな曲を作ろうと試みました。
『Variety (30th Anniversary Edition)』竹内まりや「Variety」解説より
アルバム『Variety』収録の「プラスティック・ラブ」が、1984年発売から30年以上経ってから、海外で発見されてバスりました。
もともと2010年代の初頭から、レアグルーヴ好きの間ではじわじわと山下達郎・杏里・角松敏生などが聞かれるようになりました。
海外のDJやヒップホップアーティスト・R&Bアーティストのサンプリング素材としても使われ、CITYPOPというジャンル名で呼ばれるようになりました。
そのCITY POPが爆発的に海外に広がるきっかけの火付け役となったのが「プラスティック・ラブ」です。
理由② 日本のミュージシャンによる正確なリズム・グルーヴ感
「プラスティック・ラブ」のYouTube動画を見ると、海外からのコメントが多数書きこまれています。
「ノスタルジーを感じる」「日本の80年代を知らないのに何故か懐かしさを感じる」と、コメントが書き込まれています。
そして「古さを感じさせない」というコメントもあります。
「古さを感じさせない」のに「ノスタルジーを感じる」。
「古さを感じさせない」のは今の時代のクラブなどで、DJが流しても不思議ではない16ビートのダンサブルな曲だから。
では、何が「ノスタルジーを感じさせる」のでしょうか?
海外のファンが求める「日本の80年代らしい音」は、お金をかけた贅沢なサウンド、シンセサウンド、派手なホーンセクション、そして、凄腕スタジオ・ミュージシャンによる「正確なリズムとグルーヴ感」なのだと思います。
「プラスティック・ラブ」のレコーディングに参加したミュージシャンは、錚々たるレジェンドたちです。
- 山下達郎:Electric Guitar, Acoustic Piano, Keyboards, Percussion & Background Vocals
- 中西康晴:Electric Piano
- 伊藤広規:Electric Bass
- 青山純:Drums
- 数原晋:Trumpet
- 横山均:Trumpet
- 粉川忠範:Trombone
- 及川芳雄:Trombone
- 村岡健:Tenor Sax
- 砂原俊三:Baritone Sax
- アーニー・ワッツ(Ernie Watts):Tenor Sax Solo
- 加藤グループ:Strings
- 竹内まりや:Background Vocals
- 大貫妙子:Background Vocals
「プラスティック・ラブ」のキーボーディスト・中西康晴は、次のように分析しています。
日本独特の緻密な一糸乱れぬビートを、海外の人たちが驚きを持って認識しだしたんだと思う。
引用:BSフジ『アワー・フェイバリット・ソングVol.8~私が「プラスティック・ラブ」を愛する理由』より
日本人は細かいところを真剣に作りこんでいく。
最終的にほんのちょっとの違いが出る。
日本で一番正確なリズムと均一なビートを叩けるドラマーが青山純さん。
本来、正確なリズムを求めるなら打ち込みでいいはずです。
でも、人間が奏でるグルーヴはワクワクします。
人間が叩き出すグルーヴなのに、緻密な一糸乱れぬビート。
「ワクワク」と「クール」が同居するのが「日本の80年代サウンド」なのでしょう。
レジェンドミュージシャンたちが生み出した日本独自のグルーヴの傑作が「プラスティック・ラブ」です。
驚くことに、青山純は右手1本で16ビートを叩いていたそうです。
青山純の右手1本16ビート伝説に関する記事は、検索すると沢山ありました。
一番読みごたえがあった記事が、こちら「右手1本16ビート!竹内まりやをサポートする青山純の神がかりグルーヴ」です。
このリズムに伊藤広規のベースが合わさると… それはもう魔法のように臨場感溢れるバッキングへと変貌するのだ。右手だけで刻む細かいリズムと、ベース音とバスドラのキックでぴったり合わさるユニゾンが “プラスティックの恋” と表現された、寂しくむなしい心模様に情感を与えてくれるのだ。
引用:Re:minder「右手1本16ビート!竹内まりやをサポートする青山純の神がかりグルーヴ」より
青山純の教則DVDでも披露されています。
日本が誇るレジェンド・ドラマー青山純によるドラム教則DVD |
理由③ 日本語歌詞と英語歌詞のバランスの良さ
そして「プラスティック・ラブ」の日本語歌詞と英語歌詞のバランスの良さ。
この英語歌詞がメロディに「ピタッ」とハマるというよりも、「ビタンッ!」とハマるカッコよさ。
日本語歌詞があるから英語歌詞がカッコよく聞こえ、英語歌詞があるから日本語歌詞がよりエキゾチックに聞こえる。
基本的には、日本語歌詞も英語歌詞も同じ内容「都会暮らしの女性の孤独な恋愛」を歌っています。
でも実際に「プラスティック・ラブ」を聞くと、日本語歌詞と英語歌詞でガラッと雰囲気が変わります。
竹内まりやの歌声は、日本語も英語も明瞭な発音をするため、言葉が聞きとりやすいです。
柔らかい日本語の発音で、夜更けまで遊んだ後の気だるい雰囲気を感じさせ、メリハリのある英語の発音で突然パッキと張りつめた空気感になる。
竹内まりや表紙&50P超の大特集! 10年&11年ぶりのアルバム・ツアーに向け、ロングインタビュー+ぴあ名物100Qの計3万5千字! |
竹内まりや以外にも、海外で人気があるCITY POPアーティストは、日本語と英語を明瞭に歌い分けています。
CITY POPボーカリストは、柔らかな日本語を美しく発音することが特徴です。
こちらの記事:「シティポップボーカル考察 日本語の柔らかな発音がAOR的な曲にハマる?」で紹介しています。
理由④ 竹内まりや「達郎が歌いそうな曲を書いてみよう」
2024年11月3日、MBS毎日放送系列「日曜日の初耳学」で、竹内まりやが林修からインタビューを受けていました。
そもそも「プラスティック・ラブ」は、竹内が夫で楽曲のアレンジャーでもある山下達郎を「驚かせるような曲を書こうと意気込んで書いた曲」だったという。「達郎が歌いそうな曲を書いてみよう、と。それを彼がすごくいい形でアレンジしてくれたので…。あのアレンジの力も大きいと思いますね」と分析し、公私にわたるパートナーへの絶大な信頼を覗かせた。
MBSコラム『竹内まりや 40年前の自作曲「プラスティック・ラブ」が世界的ヒット中「なぜあの曲が」夫・山下達郎と分析するも「答えがなくて…」林修に打ち明ける【日曜日の初耳学】』より
これまで紹介した「プラスティック・ラブ」が海外でバズった3つの理由。
①「プラスティック・ラブ」はグルーヴィーな16ビート
②日本のミュージシャンによる正確なリズム・グルーヴ感
③日本語歌詞と英語歌詞のバランスの良さ
結局、この3つの理由は「達郎が歌いそうな曲を書いてみよう」に集約されていますよね。
「達郎が歌いそうな曲を書いてみよう」と思い、16ビートの曲を作り、更に山下達郎がダンサブルにアレンジし、山下達郎のバックバンドでおなじみのミュージシャンたちが最高のグルーヴで演奏し、日本語歌詞と英語歌詞のバランスの良さが、新鮮な響きを生み出す。
山下達郎のアレンジについて、竹内まりやは次のように話しています。
ブラックミュージックを深く聴いてきた達郎が日本人なりのフィルターを通して編曲することによって、他の誰とも違うオリジナリティが生まれる……
木村ユタカ著『ジャパニーズ・シティ・ポップ スクラップブック』(シンコーミュージックエンターテイメント)より
そこがこの楽曲の最大の魅力だと思いますし、トラックとしては、自分がレコーディングしてきた中で最も好きな作品のひとつでもあります。
山下達郎が「プラスティック・ラブ」をカバーした音源は、1989年のライブアルバム『JOY』に収録されています。
80年代のライブ音源を収録 |
若手ミュージシャンがカバーする「プラスティック・ラブ」は、クールなサウンドが多いです。
山下達郎のカバーは、ライブアレンジということもあり、アグレッシブでエネルギッシュになっているのが面白いですね。
海外のシティポップファンによる人気アーティスト・ランキング1位は、山下達郎です。
山下達郎の海外人気については、こちらの記事:【山下達郎・杏里】シティポップキング&クイーン!なぜ海外で人気? をお読みください。
海外のファンが求めるシティポップらしいサウンドは踊れる軽快なサウンド、ノスタルジーを感じるサウンドです。
それらに見事にハマるのが山下達郎の曲。
竹内まりやの「元気を出して」「駅」「いのちの歌」「人生の扉」でもなく、「プラスティック・ラブ」が海外でバズったのは「達郎が歌いそうな曲」だったからでしょう。